仕事帰りの電車のなかで、あたしの隣にステキなご夫妻が座っていた。
ついつい耳を澄ませると、どうやら今日が30回目の結婚記念日らしい。以下、お二人の会話。妻：「外で食べてくればよかったかしらねぇ」
夫：「記念日なのに、気が利かなくてすみません…」
妻：「いいんですよ。何もないけどおうちで何か作りましょ」
夫：「あなたの焼そばが食べたいなぁ」
妻：「そんなものでいいんですか？」
夫：「だって世界一だもの」
妻：「おうちがいちばんですね」
夫：「そうですね」
世の中には正真正銘ステキな夫婦っているものだ。そんなステキな夫婦の会話を盗み聞きできるあたしって、なんてラッキーなんだ？
と言いつつ、失恋したばっかりで、なんだけど…ものすごく結婚したくなった。結婚願望って気持の内側から高まるものである以上に、外側からの影響でグングン高まるものだと思った。
家が一番！結婚したらそういう家庭を築きたい。でも、夫も妻も双方が同じ思いでいることが大切。それがステキな夫婦の条件だなあと思う。
飾らないけれどピカピカ光っている夫婦･･･結婚すればそういう夫婦になりたいな。
ただ･･･それにはやはり結婚相手の属性が物言うよね･･･。
〝おうちが一番〟でもない私は、結婚願望をふくらませながらマイルームに帰った。
ところが、帰ったとたん、見てはいけないものを見てしまった。今の部屋に越してきて、お初だ。しかも季節外れ、イヤらしいほど黒くてツヤツヤしてるアイツ。それもでかい！なんてこった･･････
スプレー片手に、1歩進んでは3歩後ずさり…30分格闘したあと窓際に追い込んだ！そしてあたしは、キッチン置いてあったボール（調理用具）をソイツめがけて投げた。
驚かして、外に出て行ってもらおうと思っただけなのに、ボールはフタをするようにパタッと着地！
隊長〜！容疑者、確保しましたっ！
ど〜しよぉ…ボールの中でカサカサいってるし…恐くて触れないし…
あたしは今日眠れるのだろうか？
そんな不安に強く駆られたあたしは、一瞬、床とボールの間に少しの隙間を空けるとスプレーをたっぷり吹き込んだ。
念には念を押した10分後、おそるおそるボールを持ち上げるとヤツはスプレーのおかげでさらにピカピカにてかりつつも、ジッと動かなくなっていた。
こんなとき、もし結婚して旦那がいればキャーッと愛らしい悲鳴を上げるだけで旦那が守ってくれるだろう･･････
失恋したばっかりで、なんだけど…ものすごく結婚願望がわいてきたのだった。